この記事の目次
建設会社がRAG(検索拡張生成)を検討する背景には、施工基準、技術資料、過去報告書、社内規程などが増え、必要な情報へたどり着くまでに時間がかかる問題があります。
ただし、資料をAIへ読み込ませるだけでは実務で使える検索にはなりません。図表の処理、文書の分割、旧版と最新版の区別、回答根拠の表示、専門家による改善が必要です。
この記事では、企業・官公庁の公開情報から建設業のRAG活用事例を5件取り上げ、検索対象と運用上の工夫を整理します。
この記事の結論
建設業のRAGで重要なのは、AIモデルの選択より次の4点です。
- 検索対象を業務単位で絞る
- 図表を含むPDFの処理方法を決める
- 回答と一緒に原典を表示する
- 誤回答を専門家が改善できる運用を作る

建設業のRAG活用事例5選
事例 | 主な検索対象 | 公開された工夫 |
|---|---|---|
大豊建設 | 社内規程、社内文書 | 表の扱いを踏まえて検索基盤を変更 |
清水建設 | 1,000ページ超の建築施工技術文書 | ページ単位の分割、図表処理、根拠表示 |
北野建設・日立ソリューションズ | 技術、工法、規定、ヒヤリハット、公開資料 | 文字・図・表の構造化、現場フィードバック |
大成建設 | 建築施工技術資料 | 利用者の指摘を専門家が模範解答へ反映 |
大日コンサルタント | 整理・構造化した技術知識 | 日常的な投稿とRAGチャットを連携 |
1. 大豊建設:表を含む社内規程への対応
大豊建設の「大豊AI」は、Amazon Bedrock Knowledge Basesを使ってRAG検索を実装しています。当初の検索基盤では、社内規程に含まれる表の扱いなどに課題があり、構成を変更したことが公開されています(AWS公式事例)。
この事例が示すのは、RAGの成否が「PDFを読めるか」ではなく、表やページ構造を含めて必要箇所を取得できるかで決まることです。
2. 清水建設:1,000ページ超の技術文書を検証
清水建設の事例では、3分冊・1,000ページ超の「新・建築施工の基礎知識」を対象にRAG化を進めています。導入支援会社によるインタビューでは、若手向け社内テストの正答率が初期検証時の約35%から最終的に93%へ改善したとされています(Lightblue導入事例)。
改善要因として公開されているのは、1ページ単位への分割、図表の画像処理、回答根拠となる該当箇所の表示です。この93%は同社の社内テスト条件での数値であり、他の資料や企業で同じ精度を保証するものではありません。
3. 北野建設:文字・図・表を構造化して現場へ
北野建設と日立ソリューションズは、国土交通省の公開資料と社内の技術ノウハウ、報告書などを対象に、文字、図・画像、表を構造化してベクトルデータベースへ格納する検証を実施しました(日立ソリューションズ公式発表)。
技術や工法、規定、ヒヤリハット事例の情報収集に加え、週次報告書の一部作成も対象としています。2026年5月には北野建設が建設現場での運用開始を公表しました。
4. 大成建設:専門家の模範解答を蓄積
大成建設の「建築施工技術探索システム」は、RAGによる回答が不正確だった場合、利用者がフィードバックできます。その内容を各技術分野の専門家が確認し、模範解答を作成・登録して利用者へ通知します(大成建設公式発表)。
AIだけで精度を改善するのではなく、専門家のレビューを知識として残す運用です。誤回答を報告する入口と、誰が直すかを設計している点が参考になります。
5. 大日コンサルタント:日常の知識共有とRAGを接続
大日コンサルタントの「D-AI-Chat」は、ナレッジマネジメントシステム「Dナレッジ」に蓄積した情報とRAGを組み合わせています。国土交通省の令和7年度インフラDX大賞資料では、3,500件以上の記事が投稿され、社員の半数以上が月10回以上利用していると紹介されています(国土交通省資料)。
通常の業務文書をそのまま投入するのではなく、「共有すべき知識」として整理・構造化している点が特徴です。
RAGの精度を左右する条件
資料の版と適用範囲
同じ名称の仕様書が複数ある場合、最新版、廃止版、案件固有版を区別します。回答に文書名、版、ページを表示できる状態が必要です。
図表とページ構造
建設技術資料では、文章だけでなく図、表、注記、参照番号が判断材料になります。テキスト抽出結果だけで評価せず、原本ページと回答が一致するかを確認します。
回答できないときの挙動
資料に根拠がない質問へ、もっともらしい回答を返すと実務では危険です。「該当資料が見つからない」と回答できるかも評価します。
PoCで使う評価項目
評価項目 | 確認方法 |
|---|---|
回答の正しさ | 技術担当者が正解例と比較する |
根拠の一致 | 表示された資料・ページを原本で確認する |
版の正しさ | 最新版・案件指定版を参照しているか確認する |
回答不能判定 | 根拠がない質問へ推測回答しないか確認する |
検索時間 | 従来検索とAI検索の所要時間を記録する |
修正内容 | 誤回答の原因を資料・検索・生成に分けて記録する |
導入前の資料整理は、建設業の社内資料検索をAI化する前に整理したい5つのことで詳しく解説しています。
まとめ
建設業のRAG活用では、社内規程、施工基準、技術資料、ヒヤリハット、過去報告書などが検索対象になっています。成功事例に共通するのは、資料を入れるだけで終わらず、図表処理、根拠表示、版管理、専門家レビューを運用に含めていることです。
最初のPoCでは、対象資料を1種類に絞り、実際に担当者が過去に調べた質問を20〜50件用意します。
ケンセツAIラボについて
ケンセツAIラボでは、仕様書、施工基準、過去見積、社内マニュアルなどを対象に、回答根拠を確認できる社内ナレッジAIの検証・開発を支援しています。
資料を一括投入する前に、版管理、閲覧権限、質問例、人が最終確認する範囲を整理します。まずは1〜3点の資料を使い、検索可能性と課題を確認する簡易デモから相談できます。
CONSTRUCTION KNOWLEDGE AI
社内資料に合わせた検索デモを作成できます。
仕様書や過去資料を1〜3点お預かりし、回答根拠まで確認できる簡易デモをご用意します。
ケンセツAIラボ編集部
建設・設備業の図面、仕様書、見積、受発注など、各社固有の業務に合わせたAI活用を調査・発信しています。
監修:株式会社ドットログ 開発チーム




